「どこを直せば、会社全体がよくなるのか」。改善したい場所が多すぎて、手が止まる。経営をしているとよくある悩みです。私自身、あちこちを少しずつ直しては、全体の流れが変わらず空回りしていました。その考え方をひっくり返してくれたのが、エリヤフ・ゴールドラットの『ザ・ゴール』です。今回はこの一冊を、自社の業務改善に実際に使ってみた所感をお話しします。
『ザ・ゴール』とは、どんな本か
倒産寸前の工場を立て直す物語の形で、「制約理論(TOC)」という考え方を学べる一冊です。難しい理論書ではなく小説仕立てなので、移動中でも読み進められます。核にあるのは、全体の成果は一番弱い部分(ボトルネック)で決まる、という発想です。
ザ・ゴール(エリヤフ・ゴールドラット 著・ダイヤモンド社)
工場再建の物語を通じて制約理論(TOC)を学ぶ実務書。全体最適は、能力の一番低い工程を見つけ、そこに合わせて流れを整えることで生まれると説きます。
使ってみて、どうだったか
本書の主張はシンプルです。あらゆる工程を均等に頑張っても、全体は速くならない。流れを止めているボトルネックを一つ見つけ、そこを徹底的に助けることに集中せよ、というものです。私はこれを読むまで、目についた問題を片っ端から直していました。今思えば、ボトルネックでない場所をいくら磨いても、全体の成果は1ミリも動いていなかったのです。
さっそく自社の受注から納品までの流れを紙に書き出してみました。すると、全体を止めているのは制作工程ではなく、その手前の「確認待ち」だと分かりました。私の承認が追いつかず、各担当の仕事が滞っていたのです。ボトルネックは、まさかの自分でした。
そこで本書のやり方に沿って、承認の基準をあらかじめ決めて担当に渡し、私が見るのは例外だけに絞りました。すると、止まっていた案件が一気に流れ始め、同じ人数のまま、月に回せる案件数が体感で2割ほど増えました(2026年時点・自社の数字です)。新しい人を雇うより先に、流れの詰まりを取るほうが効く。これを身をもって理解できたのが、いちばんの収穫でした。
もうひとつ効いたのが、「忙しい=うまくいっている」ではない、という指摘です。ボトルネック以外の工程が忙しく動いていても、それは作りすぎや手待ちを生むだけのことがあります。各メンバーの稼働率を上げることより、流れ全体が滞りなく進むことを優先する。判断の軸が、部分の頑張りから全体の流れへと切り替わりました。
どんな経営者・場面に効くか
こんな場面で役に立ちます
- あちこち改善しているのに、会社全体の成果が伸びない
- 人を増やすべきか、今のやり方を見直すべきか迷っている
- 現場は忙しそうなのに、納期や売上がついてこない
- どこから手をつけるべきか、改善の優先順位が決められない
業務にAIや自動化を入れるときも、この考え方は効きます。ボトルネックでない工程をいくら自動化しても、全体は速くなりません。まず流れを止めている一点を見極め、そこにAIや人の力を集中させる。何を自動化し、何に人が集中すべきかを決める判断こそ、経営者がやるべき仕事だと教えてくれます。
注意点・向かない人
ここは合わないかもしれません
- 物語が長めなので、要点だけ早く知りたい人には回りくどく感じられます
- 製造業の工場が舞台です。サービス業の人は、自分の現場に置き換えて読む一手間が要ります
- 読んだだけでは変わりません。自社のボトルネックを実際に探して初めて効きます
試すなら
まずは、自社の仕事の流れを一本、紙に書き出してみてください。受注から納品まで、どこで案件が止まっているか。その一点が見つかれば、本書の価値はもう半分受け取ったようなものです。残りは、物語を読みながら「自分の工場だったら」と当てはめていくだけです。
まとめ
全体の成果は、一番弱い一点で決まります。『ザ・ゴール』は、あちこち直して空回りしていた私に、「まず流れを止めている場所を探せ」と教えてくれた一冊でした。人を増やす前に、詰まりを取る。AIを入れる前に、どこに入れるかを見極める。経営者がやるべきは、全体の流れを設計し直す判断です。今日、自社の流れを一本書き出すところから始めてみてください。
あわせて読みたい:『イシューからはじめよ』を経営判断で使ってみた / 『エッセンシャル思考』を経営の現場で使ってみた


コメント