「忙しいのに、成果が増えない」。経営をしていると、必ずこの壁にぶつかります。私自身、AIで作業を自動化しても、なぜか時間に追われ続けた時期がありました。その原因をはっきり言葉にしてくれたのが、安宅和人さんの『イシューからはじめよ』です。今回はこの一冊を、実際の経営判断の現場でどう使っているかをお話しします。
『イシューからはじめよ』とは、どんな本か
ひとことで言えば「解く前に、本当に解くべき問いを見極めよう」という本です。著者はコンサルティングと脳科学研究の両方を歩んできた方で、限られた時間で価値を出す思考の型を、図とともに整理してくれています。
使ってみて、どうだったか
本書の核は、生産性を「解の質」と「イシューの質」の掛け算で捉える考え方です。私はこれを知るまで、解の質ばかり上げようとしていました。資料を丁寧に作る、数字を細かく詰める。けれど、そもそも問いがずれていれば、どれだけ丁寧に解いても成果にはつながりません。
とくに刺さったのが、手当たり次第に作業へ飛びつく動き方を戒める考え方です。私はこれを「動いている感」と呼んでいますが、忙しさで安心してしまう状態のことです。本を読んでから、新しい施策を始める前に「これは本当に、いま答えを出すべき問いか」と一度立ち止まるようになりました。
実際の効果として、毎週の経営会議の進め方を変えました。以前は議題を10個ほど並べていましたが、今は「今週決めるべき最重要の問いを3つまで」に絞っています。議題が減ったぶん一つひとつの議論が深くなり、会議時間はおよそ半分(2026年時点・自社の体感です)になりました。決めきれずに持ち越す議題も減り、翌週に同じ話を蒸し返すことがなくなったのは大きな変化でした。
もうひとつ実務で効いたのが、新しい施策を検討するときの順番です。本書を読む前は「やれそうかどうか」から考えていましたが、今は「この問いに答えが出れば、本当に事業が前に進むか」を先に確かめます。たとえば新しい集客チャネルを増やすかどうか迷ったとき、まず「そもそも今のボトルネックは集客なのか、それとも成約なのか」を見極める。問いの設定を一段手前に戻すだけで、無駄な打ち手にかけるはずだった時間とお金を何度も止められました。
本書には、十分に検討せずに作業へ飛び込み、力ずくで進めようとするやり方を避けよ、という主張も出てきます。私はかつて、まさにこのやり方で人と時間を消耗させていました。問いを見極めてから動くようになってからは、チームに渡す指示も「この作業をやって」ではなく「この問いに答えを出して」に変わり、メンバーが自分で考えて動く場面が増えています。
どんな経営者・場面に効くか
こんな場面で役に立ちます
- やることリストは長いのに、肝心の成果が動かないと感じている
- 会議や資料作りに時間を取られ、判断そのものが後回しになっている
- AIで作業は速くなったが、何に時間を使うべきかが定まっていない
- 新規事業や施策の「やる・やらない」を決める基準がほしい
AIの活用が進むほど、作業を速くこなす力の価値は下がっていきます。代わりに伸びるのは「どの問いに向き合うかを決める力」です。本書は、その判断を人がやるべき仕事として言語化してくれます。AIに任せる作業と、人が集中すべき見極めを切り分けたい経営者ほど、得るものが大きいはずです。
注意点・向かない人
ここは合わないかもしれません
- すぐ使えるテンプレや手順書を求める人には、抽象度が高く感じられます
- 図やチャートが多く、移動中にさっと読む本ではありません。机に向かってじっくり読むタイプです
- 「考え方」の本なので、読んだだけでは変わりません。自分の現場に当てはめて初めて効きます
試すなら
気になった方は、まず手元に置いて、いまの自分の「やることリスト」を一つ見直すところから始めるのがおすすめです。一冊読み切らなくても、序盤の「イシューとは何か」を理解するだけで、明日の判断が変わります。
まとめ
生産性は、こなした作業の量ではなく、良い問いに良い答えを出した量で決まります。『イシューからはじめよ』は、忙しさに飲み込まれそうな経営者に「まず問いを見極めよう」と立ち止まらせてくれる一冊でした。AI時代に人が磨くべきは、速く解く力ではなく、何を解くかを決める力です。今日の判断を一つ、問い直すところから始めてみてください。
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