人を増やしたわけでもないのに、毎月おなじトラブルが戻ってくる。原因を聞けば「確認漏れでした」「今回はたまたま」で終わり、翌月また似た報告が上がってくる。大野耐一『トヨタ生産方式』を読み直して自社の業務改善に当てはめてみたところ、詰まっていたのは現場の能力ではなく、問題が見えないまま流れていく仕組みの方でした。
『トヨタ生産方式』が突きつける「直すのは人ではなく仕組み」という発想
本書は、戦後のトヨタで生産現場を任された大野耐一が、当時のアメリカとの間にあったとされる大きな生産性の差を、人も設備も増やさずに埋めようとした記録です。たどり着いた答えは根性でも精神論でもなく、ムダがひとりでに表へ出てくる仕組みをつくること。その中心にあるのが「なぜを五回くり返す」と「異常が出たら現場の判断で止めてよい」という二つの約束事でした。なお生産性の格差や逸話・年代は同書および各種記録にもとづく紹介であり、諸説あります。
使ってみた一言まとめ
『トヨタ生産方式』は、犯人を探す会議を「仕組みを直す会議」に変える一冊。報告書に“なぜ”を五回そえるルールにしただけで、上がってくる情報の質が変わりました。
使ってみた①|トラブル報告に「なぜ」を五回そえるルールにした
まず手をつけたのは、社内のトラブル報告のフォーマットです。それまでは事象と対処だけを書いていたものを、本にならって「なぜ」を五段まで書く欄に変えました。たとえば納品が遅れた件では、一段目は「担当が忙しかった」。二段目で「確認待ちが三日あった」、三段目で「確認できる人が一人しかいない」、四段目で「その人しか判断基準を知らない」、五段目でようやく「判断基準が文書になっていない」に届きます。
ここまで掘ってはじめて、打ち手が「担当に気をつけてもらう」から「判断基準を一枚にまとめる」へ変わりました。一段目で止めていた頃は毎月おなじ報告が出ていたのに、五段まで書く運用にした月から、同一原因の再発が目に見えて減っています。掘る作業そのものは十五分ほどで終わります。
この「一番詰まっている一点まで降りていく」感覚は、『ザ・ゴール』を業務改善に使ってみた回で扱ったボトルネックの考え方とそのまま重なります。
使ってみた②|「止めていい」を明文化して、異常が出てくるようにした
本書のもう一つの核は、異常に気づいた人がラインを止めてよい、という設計です。止めれば当然その場の生産は落ちます。それでも止める価値があるのは、止まった瞬間に「何が問題なのか」が全員に見えるからです。
自社では、受注から納品までの流れの中で「これは進めてよいか迷う」と感じたら、その場で手を止めて共有チャンネルに一行書いてよい、と明文化しました。重要なのは、止めた人を評価すると先に宣言したことです。人は責められるほど問題を隠します。隠れた問題は必ず後工程で、より高いコストになって表に出てきます。
運用してみると、止まる回数は最初の二週間だけ増え、その後は落ち着きました。増えた分は、これまで水面下に沈んでいた迷いが可視化されただけだったわけです。
使ってみた③|ムダに名前をつけて、探せるようにした
本書はムダを種類ごとに切り分けて名前を与えます。名前がつくと、はじめて探せるようになる。これは製造業に限った話ではありませんでした。
自社の事務作業を棚おろしして、待ち時間のムダ、つくりすぎのムダ、運搬のムダ、という言い方で並べ直してみたところ、いちばん重かったのは「つくりすぎ」でした。誰も読まない週次資料、念のために出していた二重の集計。やめた分の時間を、判断基準の文書化に回しています。
属人化を外して経営者が現場から離れていく段取りは、中小企業の業務を仕組み化する方法にまとめています。
経営者が学んだのは「問題は隠れるものだ」という前提
『トヨタ生産方式』を業務改善に使って、いちばん効いたのは手法そのものより前提の置き換えでした。問題は放っておけば隠れる。だから見えるようにする設計が要る。この前提に立つと、経営者の仕事は「ミスを見つけて指摘すること」ではなく「ミスが自分から出てくる場をつくること」に変わります。
数字を集めて分析するところは、いまならAIがかなりの部分を引き受けてくれます。それでも、出てきた数字を前に「なぜ」と問い直し、仕組みを設計しなおす判断は人間の側に残ります。むしろ集計から解放されるほど、本来の仕事の比重は増えていきます。
まとめ|同じ問題が何度も起きると感じたら
忙しく働いているのに成果が積み上がらない、同じトラブルが季節のように戻ってくる。そう感じているなら、犯人ではなく仕組みを疑うところから始める価値があります。本書は工場の本の顔をしていますが、書かれているのは、人を責めずに問題を可視化するための設計思想です。まず一件、直近のトラブルに“なぜ”を五回そえてみるだけでも景色が変わります。
同じ視点をもう少し広く整理したい方は、向上心のあるビジネスパーソンが読むべきビジネス書5選もあわせてどうぞ。


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